最高裁判所第二小法廷 昭和55年(し)91号 決定 1980年11月13日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
弁護人中村三次の抗告趣意は、違憲(憲法三九条違反)をいう点をも含め、実質において単なる法令違反の主張であって、刑訴法四三三条の抗告理由にあたらない。
なお、被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものであるが、本件のように、過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的をもって、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせたばあいには、右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであって、これによって当該傷害行為の違法性を阻却するものではないと解するのが相当である。したがって本件は、原判決の認めた業務上過失傷害罪にかえて重い傷害罪が成立することになるから、同法四三五条六号の「有罪の言渡を受けた者に対して無罪を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認める」べきばあいにあたらないことが明らかである。
本件再審請求は、右の点においてすでに理由がない。
よって、同法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮崎梧一)